厚生労働省が9月8日に公表した毎月勤労統計調査の2026年7月分結果速報は、経営者にとって見過ごせない数字でした。この記事では速報の要点を整理したうえで、徳島の中小企業が直面する「賃上げ原資をどう作るか」という問いに、当事務所なりの答えを書きます。
7月速報の要点: 名目4.7%増、実質賃金もプラス
事業所規模5人以上の主な数字は次のとおりです(カッコ内は前年同月比)。
| 項目 | 金額・指数 | 前年同月比 |
|---|---|---|
| 現金給与総額(名目賃金) | 436,401円 | +4.7% |
| 所定内給与 | 280,797円 | +4.1% |
| 特別に支払われた給与 | 134,819円 | +6.3% |
| 実質賃金(現金給与総額ベース) | 117.6 | +2.4% |
| パートタイム労働者の時間当たり所定内給与 | 1,460円 | +5.7% |
「名目賃金は上がっても実質賃金はマイナス」という報道が続いた時期もありましたが、7月速報では消費者物価(持家の帰属家賃を除く総合、+2.2%)の伸びを賃金の伸びが上回り、実質賃金も+2.4%とプラスでした。夏の賞与(特別に支払われた給与+6.3%)の押し上げも効いていますが、所定内給与だけ見ても+4.1%。賃上げは一部の大企業の話ではなく、統計に表れる既成事実になっています。
特に注目してほしいのがパートの時給1,460円(+5.7%)という数字です。最低賃金の引上げ「率」を上回るペースで、市場の時給相場そのものが動いています。
徳島の現場: 「最賃に合わせる」だけでは足りない
徳島県最低賃金は、前回の記事で解説したとおり時間額1,103円(+57円、5.45%引上げ)、2026年11月1日発効(予定)です。時給1,103円未満のパート・アルバイトがいる事業所は、11月までに賃金改定が必須です。
ただ、7月速報が示すのはもう一段厳しい現実です。全国のパート時給相場は平均1,460円まで上がっており、最低賃金ぴったりの求人では応募が集まりにくい構造が強まっています。「法律を守るための賃上げ」と「人を採り、定着させるための賃上げ」の二段構えで原資を考える必要があります。
この人件費増を売価への転嫁(値上げ)だけで吸収できる業種は限られます。そこで当事務所が一貫してお伝えしているのが、「値上げの前に、省力化で原資を作る」という発想です。
AI省力化の実例: 当事務所で実際にやっていること
当事務所は「AIエージェントと社労士事務所を運営する実験」を公開しながら進めています。誇張なしに、現時点で実際に回っている省力化は次のようなものです。
- 勤怠チェックの自動化: 毎晩、AIが打刻データを9つの観点(打刻漏れ・乱れ等)で機械チェックし、異常だけを人が確認する体制(事例記事)。従来は人が目視で全件確認していた作業です。
- 書類・文書作成の下書き: 規程類や案内文書の初稿をAIが作り、人は修正と最終判断に集中する。ゼロから書く時間がほぼなくなりました。
- ウェブサイトの内製化: 従来なら外注していたサイト全面リニューアルを、AIとの分業で1日で実施(実録記事)。外注費0円。
- 問い合わせ対応の下ごしらえ: フォームからの問い合わせ内容の整理・台帳記録を自動化し、人は回答の中身だけを考える。
共通するのは、AIに「作業」を渡し、人には「確認と判断」を残すという設計です。全部をAIに任せるのではなく、確認ポイントを絞ることで時間が生まれます。
簡易試算: 月10時間の削減はいくらの「賃上げ原資」か
控えめな例で計算してみます。事務担当者(時給換算1,200円とします)の定型作業を、AI活用で月10時間減らせたとします。
- 生まれる原資: 1,200円 × 10時間 = 月12,000円
- 一方、最賃引上げによる負担増は、時給1,046円のパートを1,103円に上げる場合、+57円。月80時間勤務なら 57円 × 80時間 = 月4,560円
つまり月10時間の省力化で、月80時間勤務のパート約2.6人分の最賃引上げ原資が理屈上まかなえます。もちろん「浮いた時間」がそのまま現金になるわけではなく、その時間を売上につながる業務や残業削減に振り向けて初めて意味を持ちます。それでも、「賃上げ分をどこから持ってくるか」の答えが値上げと利益圧縮しかない状態と比べれば、打ち手が一つ増えることは確かです。
なお、賃金引上げと設備投資(省力化投資を含む)をセットで行う中小企業には業務改善助成金という制度もあります。徳島は発効予定日の関係で申請は10月31日までとなる見込みですので、検討するなら今月中に動いてください。
まとめ: まず「業務の棚卸し」から
- 毎月勤労統計7月速報: 名目+4.7%、実質+2.4%、パート時給は全国平均1,460円。賃上げの流れは統計上も明確
- 徳島最賃1,103円(11月1日発効予定)への対応は「法令対応」と「採用力」の二段構えで
- 原資づくりは値上げの前に省力化。AIに渡せる「作業」が自社のどこにあるか、業務の棚卸しから始める
- 業務改善助成金の申請期限(徳島は10月31日見込み)に注意
「うちの業務のどこからAI化できるのか」という段階のご相談も歓迎です。当事務所自身が日々AI運用を回している経験をもとに、無理のない省力化の順番を一緒に考えます。まずは無料相談をご利用ください。
参考(一次情報)
- 厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026(令和8)年7月分結果速報」(2026年9月8日公表): https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r08/2607p/2607p.html
- 徳島労働局「徳島県最低賃金の引上げが答申されました」(2026年8月24日): https://jsite.mhlw.go.jp/tokushima-roudoukyoku/newpage_02189.html
- 厚生労働省「業務改善助成金」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03.html
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。速報値は確報で改訂される場合があります。
