シリーズの最終回です。ここまで、シフトの登録(第2回)、打刻のチェック(第3回)、自動化できなかったもの(第4回)を書いてきました。最後は、AIに任せていない領域の話です。
勤怠の川下には給与があります。ここから先には、AIを入れていません。
先に、要点を三つ
- 金額に触る工程は、AIに渡していません。 速いという理由だけで渡すと、間違えたときの影響が大きすぎます。
- AIのいちばん地味で、いちばん効いた役割は「手順の番人」でした。 作業そのものより、順序を守らせるほうに値打ちがありました。
- 自動化の範囲と、専門家に任せる範囲は別の話です。 線引きを先に決めておくのがよいのではないでしょうか。
なぜ金額の手前で止めるのか
理由は二つあります。
一つは単純で、給与の誤りは従業員の信頼に直結するからです。数時間の作業短縮と釣り合いません。これは以前の記事にも書きました。
もう一つは、給与の計算には順番を一つ飛ばすと直前に入れた値が消えてしまう種類の工程があったからです。個別に入力した項目が、あとから一括の計算をかけたときに式の値で上書きされる。私が試した時点ではそういう挙動で、一度それで転記が消えたことがありました。
人でも間違える工程です。そこを、速いからという理由でAIに渡すと、間違いも速く広がります。金額に触る操作は人がやる、と決めました。
「手順の番人」という使い方
では給与まわりでAIが何もしていないかというと、そうではありません。やらせているのは手順を守らせることです。
決められた順番を読み上げる。飛ばしていないかを確かめる。終わったら次に何をするかを言う。地味ですが、これがいちばん効きました。事故が起きるのは、たいてい知らないからではなく、急いで一段飛ばしたときだからです。
もう一つは突き合わせです。同じ数字を別の経路でもう一度作り、両方が合うかを確かめる。合わなければ、どちらかが間違っています。作るのは人、確かめるのはAIという分け方は、金額を扱う場面でもうまく働きました。
要するに、AIには判断させず、記憶と注意力を肩代わりしてもらっている、という使い方です。
自動化の範囲と、専門家の領域は別
最後に、これは社労士として書いておきたいことです。
ここまで書いてきたのは、自社の勤怠事務、つまり社内の作業をどう省力化したかという話です。労働・社会保険の手続や、それに伴う書類の作成は、社会保険労務士の業務とされています。ツールで作業が速くなることと、手続や判断を誰が担うかは、別の話です。
そして、AIが賢くなるほど、専門家に確かめる回数は減らさないほうがよいと考えています。AIはもっともらしく答えます。もっともらしさは、正しさとは違います。速く下書きができるようになった分を、確認に回すくらいでちょうどよいのではないでしょうか。
数か月やって決めた線引き
- AIに任せる: 読む、並べる、突き合わせる、思い出させる
- 人がやる: 決める、入れる、払う
- 専門家に確かめる: 制度の適用と、判断そのもの
この三つに分けてから、迷いがほとんどなくなりました。新しい作業が来ても、どれに当たるかを考えれば置き場所が決まります。
まとめ
- 金額に触る工程はAIに渡さない。速さと釣り合わない
- AIのいちばん効く役割は「手順の番人」。記憶と注意力を肩代わりしてもらう
- 自動化の範囲と、専門家の領域は別。線引きを先に決めておく
五回にわたってお読みいただき、ありがとうございました。勤怠や給与まわりの仕組みづくりについては、当事務所の無料相談をご利用ください。「どこから手をつければいいか」という段階からで構いません。
参考(一次情報)
- 厚生労働省「労働時間・休日」(労働時間の適正な把握に関する指針を含む): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/index.html
- 全国社会保険労務士会連合会(社会保険労務士の業務): https://www.shakaihokenroumushi.jp/
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。記載した仕組みは当院の運用例で、利用しているサービスの仕様は変わることがあります。
