「先月の何日ですが、退勤の打刻が入っていないようで……」。月末の締めのたびに、私はこれを言っていました。言われるほうも困ります。三週間前の帰り時刻を、正確に覚えている人はいません。

この一言を言わなくてよくなった、という話です(第1回・第2回の続きになります)。

先に、要点を三つ

  1. 検知の値打ちは、精度よりも早さにあります。 翌朝に聞ければ本人も覚えています。三週間後に聞くから記憶に頼ることになる。
  2. AIの出力は「判断」ではなく「本人に何を聞くか」の一覧にとどめます。 直す作業そのものは人がやる。ここを混ぜないほうが安定しました。
  3. 推定で記録を埋めません。 客観的な記録によることが原則とされている以上、もっともらしい数字で空欄を埋めるのは、その趣旨から外れると考えられます。

何を異常とみなすか、先に決めておく

毎晩の自動チェックを作るにあたって、最初にやったのは「何を異常と呼ぶか」を言葉にすることでした。当院では九つの型に整理しています。

打刻がそもそも一つも無い。出勤だけがあって退勤が無い。逆に退勤だけがある。退勤が二回押されている。休憩を始めるつもりで退勤を押してしまった形。予定よりかなり早い退勤。休憩の戻りが打たれていない。長時間の勤務なのに休憩打刻がゼロ。それからソフト自身が「要確認」と旗を立てている場合。

型にすると何が良いかというと、毎晩、同じ基準で見てくれることです。人がやると、忙しい日は甘くなり、余裕のある日は細かくなる。機械にはその波がありません。

型を作る作業自体は、AIと相談しながら進めました。「こういう押し間違いがある」と話すと、それを見分ける条件に翻訳してくれる。ここはAIが得意な仕事だと感じています。

「今すぐ聞く」と「明日まで待つ」を分ける

作ってすぐ分かったのは、全部を一覧に出すと使われなくなるということでした。

たとえば、夜の時点で退勤打刻が無い人。まだ働いている可能性があります。それを毎晩「異常です」と挙げていたら、確認する側はすぐに読まなくなります。仕組みが嫌われたら終わりです。

そこで重さを三段階に分けました。今すぐ本人に確認するもの。参考として見ておくもの。翌晩もう一度判定すればよいもの。退勤打刻が無いだけなら、まずは様子見に置いて、翌晩も残っていれば確認に上げます。実際、異常なしで終わる晩のほうが多く、確認が要る日は限られています。

出す量を絞ることが、仕組みを続ける条件でした。検知の網を広げるほど良い、というものではないようです。

推定はさせるが、記録には使わない

AIは、過去の同じ曜日の出退勤から「この人はだいたいこの時刻に帰っている」を計算できます。便利ですし、実際その参考値は一覧に並べています。

ただし、それを記録に入れることはしません。労働時間の把握は使用者の責務とされ、国の指針でも、タイムカードなど客観的な記録によることが原則とされています。推定値で空欄を埋めた記録は、見た目は整っていても、記録としての意味が薄くなってしまうと考えられます。

ですから参考値の使い道は一つだけで、本人に尋ねるときの取っかかりです。「この日、いつもの時間くらいまででしたか」と聞く。答えをもらってから、人が直す。遠回りに見えますが、勤怠は給与の一次データなので、ここは近道をしないほうがよいと考えています。

まとめ

  • 検知の値打ちは早さ。翌朝に聞ければ、本人の記憶が残っている
  • 異常の型を先に言葉にしておくと、毎晩同じ基準で見てもらえる
  • 出す量を絞る。今すぐ聞くものと、様子見でよいものを分ける
  • 推定値は会話の取っかかりまで。記録には使わない

次回は、自動化しようとして「できなかった」ものの話を書きます。

打刻エラーの運用でお困りのことがあれば、当事務所の無料相談をご利用ください。

参考(一次情報)

  • 厚生労働省「労働時間・休日」(労働時間の適正な把握に関する指針を含む): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/index.html

※本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。記載した仕組みは当院の運用例です。