ここまで、賃金・規模・業種の条件が外されていく流れ(第1回)と、130万円の壁が第3号の見直しとあわせて先送りされた理由(第2回)を読んできました。最終回は、最後に残る「週20時間」という時間の線を考えます。
先に、要点を三つ
- 賃金・規模・業種が外れた後、会社の保険への加入を決めるのは「週20時間」という時間の線になります。
- 雇用保険は先に動き、2028年10月から加入の線が週10時間に下がります。 健康保険・厚生年金の時間の線は今回は見直さないとされましたが、国会の附帯決議は引下げ等の検討を求めています。
- 加入を決めるのは、契約上の週の所定労働時間、つまりシフトの組み方です。 線のすぐ下に合わせる働き方は、線そのものが動けば通用しなくなる可能性があります。
最後に残った「時間の線」
賃金の条件がなくなったことで、健康保険・厚生年金については「年収をいくらに抑えるか」という調整の意味が薄れました。会社の規模の条件も、2035年10月にはなくなる予定です。そうなると、短時間で働く方が加入するかどうかは、学生でないことなどを除けば、ほぼ「週の所定労働時間が20時間以上か」で決まることになります。
収入で引かれていた線が、時間で引かれる線に置き換わっていく。3回にわたって資料を読んできた私の、いちばんの実感です。
雇用保険は先に動く — 2028年10月の週10時間
同じ「週20時間」の線は、雇用保険にもあります。こちらは2024年の法改正で、2028年10月1日から週10時間以上に引き下げられることが決まっています。
健康保険・厚生年金についても、審議会では、働き方に中立的な制度にする観点から雇用保険にあわせて引き下げるべきだという意見がありました。一方で、保険料や事務の負担がさらに大きくなることや、国民健康保険・国民年金という受け皿があることを踏まえ、慎重に考えるべきだという意見もあり、今回は見直さないとされています。
ただ、改正法の成立にあたって衆参の委員会が付けた附帯決議は、雇用保険が週10時間になることなどを踏まえ、労働時間の条件の週10時間への引下げ等を検討するよう求めています。決まったことではありませんが、次の議論の材料はすでに並んでいる、と読むのが自然ではないでしょうか。
シフトの組み方が加入を決める時代に
時間で線が引かれる以上、加入を決めるのは契約上の週の所定労働時間です。実際の働き方が契約と離れた状態が続けば、実態に合わせて扱いが見直されることもあります。
「週19時間の契約にしておけば入らなくて済む」という組み方は、いまは成り立っていても、線が動けば前提ごと変わり得ます。人の配置は、線の上か下かで決めるより、仕事の量に合わせて決めておくほうが、後から慌てずに済むと考えられます。
そのうえで考えられるのは、契約上の時間と実際のシフトの時間を定期的に突き合わせておくことです。表と表を照らし合わせる作業はAIが得意な分野で、私も勤怠の点検で使っています(シフト表をAIに読ませる)。ずれを見つけるのはAI、どう直すかを決めるのは人、という分け方が現実的ではないでしょうか。
まとめ
- 収入の線が消え、加入を決めるのは「週20時間」という時間の線になる
- 雇用保険は2028年10月から週10時間。健康保険・厚生年金の週10時間化は「検討」の段階
- 契約上の時間とシフトの組み方を、線を前提にせず見直しておく
3回にわたり、審議会の資料から国の向かう先を読んできました。条件を一つずつ外し、雇われて働く人を会社の保険で受け止めていく。その方向は、資料を読む限りかなり一貫していると私は感じています。お読みいただき、ありがとうございました。
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参考(一次情報)
- 厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」: https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001255172.pdf
- 厚生労働省「社会保障審議会年金部会における議論の整理」(2024年12月25日公表): https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20241225.html
- 第25回社会保障審議会年金部会 資料1「令和7年法律第74号の概要等」(附帯決議を含む・2025年6月30日): https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001592624.pdf
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。制度の方向性に関する記述は、公表資料をもとにした筆者個人の考察です。内容は2026年10月13日時点の公表資料によります。
