この12月、iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金の上限が引き上げられ、加入できる年齢も広がります。会社に企業年金がない会社員の方なら、上限は月2.3万円から6.2万円へと大きく変わります。

金融機関のサイトには、新しい上限の一覧や手続きの期限がすでに並んでいます。私が気になったのは、国がなぜ今、誰に向けてこの枠を広げたのか、という点です。審議会の資料を読みながら考えたことを、今回から5回に分けて書きます。前の連載と同じく、制度の解説というより、私自身の勉強の記録です。

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先に、教訓(結論)を三つ

  1. 12月の改正は、上限を上げただけではありません。 会社に企業年金があるかどうかで差をつけない形に変えた、と読めます。
  2. 国は私的年金を、公的年金と組んで使う部品と位置づけ直しました。 公的年金への「上乗せ」にとどまらない役割が書き込まれています。
  3. 企業年金がない中小企業の従業員ほど、枠の広がりは大きくなります。 自分で備える手段がiDeCoしかないのに、上限が月2.3万円にとどまっていたのがこの人たちでした。

12月に変わること

変わるのは大きく三つです。

一つ目は掛金の上限です。会社員の上限は、勤め先の企業年金と合わせた共通の枠にそろえられます。企業年金がある場合は、会社が出している分を差し引いた残りをiDeCoで埋める形になります。二つ目は加入できる年齢で、条件を満たせば70歳になるまで掛金を出せるようになります。三つ目は変わらない点で、掛金を課税の対象から差し引ける税の優遇は、改正後も続きます。

新しい上限は、12月分の掛金から使えます。引き落としが翌年1月になるため「1月から」と書く記事もありますが、制度の上では12月からです。

「働き方に中立」という言葉

改正のもとになった社会保障審議会の企業年金・個人年金部会の「議論の整理」(2024年12月)を読むと、「働き方に中立な制度」という言葉が出てきます。企業年金がある人もない人も、企業年金と合わせた共通の上限まで積めるようにする、という方向です。

これまでは、勤め先にどんな企業年金があるかで、自分で積める額が決まっていました。転職すれば上限が変わり、企業年金のない会社に勤める人ほど、自分で備える手段が細い。その差を小さくすることが、今回の改正の芯だと私は読んでいます。

以前、短時間で働く方の社会保険の回で、年金部会が「中立的な制度」を掲げていることを書きました(こちら)。社会保険の加入条件でも、iDeCoの枠でも、勤め先や働き方で差をつけないという同じ考え方が働いているように見えます。

「相まって」と「つなぎ」

同じ議論の整理は、私的年金の目的を「公的年金の給付と相まって」国民の生活の安定に寄与するもの、と置いています。さらに、長く働きながら、公的年金の受け取りが始まるまでの「つなぎ」として私的年金を受け取る選択肢にも触れています。

私的年金は、公的年金に少し足すおまけではなく、受け取り始める時期も含めて公的年金と組み合わせて使う部品として考えられている、と読めます。70歳までの加入も、高齢になっても働く人が増えていることと切り離せないのではないでしょうか。

一方で部会は、個人の枠を広げることが、会社が企業年金を続ける意欲をそがないように、とも繰り返しています。会社の役割がなくなるわけではない、という点は第3回で取り上げます。

まとめ

  • 上限の引き上げと70歳までの加入が、12月分の掛金から始まる
  • 芯にあるのは、企業年金の有無で差をつけない「働き方に中立」という考え方
  • 私的年金は、公的年金と組んで使う部品として位置づけ直された

この連載では、このあと第2回「公的年金が細る中で、iDeCo はどこに置かれたのか」、第3回「企業年金がない会社にできること — iDeCo+ と企業型 DC の選び方」、第4回「給与を掛金に振り替える前に — 選択制 DC と、国が用意した正規の道」、第5回「入口は広がり、出口はこれから — 受け取り方まで含めて設計する」と、国の狙いから会社にできることへ順に進めていきます。

自社の従業員への説明や、企業年金の有無による影響の整理については、当事務所の無料相談をご利用ください。

参考(一次情報)

  • 社会保障審議会企業年金・個人年金部会「社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論の整理」(2024年12月27日): https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001366863.pdf
  • 厚生労働省「iDeCo がパワーアップします!」(リーフレット): https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001620594.pdf

※本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的・税務上の助言や金融商品の推奨ではありません。掛金の額や受け取り方は、税理士などの専門家にご相談ください。制度の方向性に関する記述は公表資料をもとにした筆者個人の考察で、内容は2026年11月2日時点の公表資料によります。