配偶者の扶養から外れる、いわゆる「年収130万円の壁」については、現在、その運用が緩和される方向で見直しが進められています。本コラムでは、その具体的な内容を確認しつつ、事業主として押さえておくべき注意点を整理します。

1.今回の緩和ルールの柱は2つ
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| 区分 | 内容 | 適用時期 |
|---|---|---|
| ① 事業主証明による被扶養者認定の円滑化 | 一時的な収入増で130万円超になっても、「一時的増収」である事業主証明を添付すれば扶養継続を認めやすくする仕組み | 2023年10月~恒久化 |
| ② 年間収入の見方の見直し | 2026年4月以降は、雇用契約書等の「契約ベースの年収見込み」で判定し、契約段階で見込みにくい残業代などは年収見込みに含めない | 2026年4月1日~ |
いずれも狙いは
「たまたま残業・シフトが増えた程度で、すぐに扶養から外さなくてよいようにする」
という点です。
ただし、恒常的に130万円超で働く人を扶養に残せる制度ではありません。
2.① 事業主証明のポイントと注意点
制度の概要
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| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 健康保険・共済組合の被扶養者(配偶者に限らず) |
| 趣旨 | 人手不足等で一時的に収入が130万円以上となる場合、「一時的な収入変動」である旨の事業主証明を添付すると、扶養継続を認定しやすくする仕組み |
| 条件 | 被扶養者の収入基準(130万・150万・180万)と生計維持関係を満たしていること |
| 回数制限 | 同一人について「原則連続2回まで」利用可能 |
| 一時的の典型例 | 欠員の穴埋め、突発的な大口案件、一時的な繁忙による残業・繁忙手当 |
| 一時的と認められない例 | 基本給アップ、恒常的手当の新設、所定労働時間・日数の増加など、今後も増収が続くもの |
金額の上限はあえて決めておらず、実態(雇用契約書・シフト等)を見て保険者が個別判断します。
注意したいリスク
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| リスク | 具体的な内容 |
|---|---|
| 保険者判断の違い | 同じようなケースでも、協会けんぽ支部と共済組合とで「一時的」と見るかどうかの厳しさが違う可能性 |
| 連続2回の上限 | 2年連続で証明に頼ると、3年目に「一時的とは言えない」とされ、扶養否認・遡及加入となるおそれ |
| 実態は恒常的増収 | 残業・シフト増が常態化していると、書類上「一時的」と書いても、雇用実態から否認され得る |
| 他社収入の見落とし | 本人が他社でも働いており、通算すると恒常的に130万円超なら、そもそも扶養不可 |
| 生計維持要件で否認 | 被扶養者の年収が本人の年収を上回る等で、生計維持関係が否定され扶養取消しとなることがある |
位置づけ:
事業主証明は「グレーを長く引き延ばすカード」ではなく、本当に一時的な繁忙への応急処置という理解が安全です。
3.② 2026年4月からの「年間収入の見直し」
何が変わるか(扶養内パートを想定)
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| パターン | 2026年4月以降の見方 |
|---|---|
| 給与収入のみ | 労働条件通知書・雇用契約書の内容(時給・所定時間・日数・固定手当・賞与など=労基法11条の賃金)を年間換算して判定。契約段階で見込みにくい残業代は含めない。 |
| 労働条件書がない | 従来どおり、収入証明書・課税証明書等で判定 |
| 給与+年金・事業収入等 | 従来どおり、課税(非課税)証明書等の実績ベースで判定 |
| 想定外の臨時収入 | 認定時に想定していなかった残業代などで結果として130万円超でも、社会通念上妥当な一時的増加なら、それだけで直ちに扶養取消しとしなくてよい。 |
ポイントは、「契約ベースで判断」「一時的な残業で後から扶養がひっくり返るケースを減らす」という方向性です。
4.それでも残る「扶養が後から覆る」主なパターン
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| リスク | 内容 |
|---|---|
| 契約上130万超と評価される | 時給×所定時間+固定手当+予定賞与を年換算すると130万円を超えると、残業を除外しても「見込み130万以上」とされ扶養不可。 |
| 残業の恒常化 | 毎月同程度の残業が続くと、「所定時間の事実上の増加」と見られ、契約実態ベースで130万円超と判断され得る。 |
| 収入確認での振り返り | 年1回の収入確認(課税証明書等)で、「実質130万超状態が継続」と保険者に判断されれば、見直し趣旨に反しない範囲で遡及取消しの余地は残る。 |
| 給与以外の収入 | 年金・不動産・一部の非課税収入も含めて判定されるため、会社が給与だけで130万未満と見ていても、他収入込みで基準超となることがある。 |
5.現実的な構え方
原則
- 労働条件通知書に基づく「契約上の年収」が明らかに130万円未満になるように設計する
(時給・所定時間・固定手当・賞与を全部乗せて試算したうえでライン管理)
例外(緩和ルールの利用)
- 突発的な繁忙・欠員対応など、どうしても一時的な残業・シフト増が必要な年だけ、事業主証明の活用を慎重に検討する
社内説明で押さえたい点
- 事業主証明を出しても「必ず扶養に残れるわけではない」
- 最終判断は保険者であり、「遡及否認の可能性はゼロではない」
ということを、扶養内パートの方へあらかじめ伝えておくことが重要です。
【免責事項】 本コラムは執筆時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別事案の判断を保証するものではありません 。内容には細心の注意を払っておりますが、正確性や完全性を保証するものではなく、本情報の利用により生じた損害等について一切の責任を負いかねます。実際の対応にあたっては、必ず最新の公的情報を確認されるか、専門家にご相談ください。


