従業員の将来を思い、NISAやiDeCoの積立を会社が支援する――。非常に素晴らしい取り組みですが、経営者の想いが強いほど「従業員とのリテラシーの温度差」に悩まされるものです。
知識がないままお金だけ出すと、制度のありがたみが伝わらないばかりか、思わぬトラブルの元にもなります。クリニック事務長も務める社労士の視点で、大切なポイントを絞ってお伝えします。

会社からの支援金は「給与」として扱うのが基本
まず実務上のルールとして、会社が投資額に応じて支給するお金は、原則として「給与(賃金)」扱いになります。
- 税金・保険料の対象: 所得税がかかり、社会保険料の算定対象にもなります。
- シンプルな運用を: 複雑な仕組みを追求するよりも、まずは「手当」として分かりやすく支給するのが、小規模事業所では事務負担も少なく現実的です。
「お金」を出す前に「教育」で土壌を作る
リテラシーが低い状態で制度だけ導入しても、従業員は「よく分からないけれど、会社が言ったからやる」という受動的な態度になりがちです。
- 学ぶ機会を先に作る: まずは投資の基本(長期・分散・積立)を伝える研修を行いましょう。「なぜ今、資産形成が必要なのか」を共有することが大切です。
- 教育を支援の入り口にする: 「研修参加」や「口座開設」に対して一時金を出す形なら、月々の社会保険料への影響を抑えつつ、学ぶ意欲をダイレクトに後押しできます。
小規模事業所に適した「スモールステップ」
いきなり毎月の手当を固定するのではなく、段階を踏むのがコツです。
- 知る: 資産形成研修の実施(参加手当の支給)
- 始める: iDeCo・NISAの開始(開始祝い金の支給)
- 続ける: 月々の積立額に応じた「資産形成支援手当」の支給
経営者が守るべき「一線」
良かれと思っても、以下の2点は徹底して「一線を引く」必要があります。
- 自己責任の明示: 「最終的な投資判断は本人」「元本割れのリスクがある」ことを必ず文書で周知しましょう。
- 中立性の保持: 特定の金融機関や商品を強く勧めず、あくまで公的な資料の提供や、一般的な仕組みの解説に留めるのが安全です。
まとめ
規模事業所におけるNISA・iDeCo支援は、以下の3軸で運用するのが現実的です。
- 会社からの金銭支援は「給与」として適切に処理する。
- 「教育(研修)」をセットにし、従業員の理解度を底上げする。
- まずは「一時金」などの負担の少ない形からスモールスタートする。
制度の形だけを整えるのではなく、従業員が内容を正しく理解し、主体的に活用できる環境を整えることが、結果として制度の定着と福利厚生としての価値向上につながります。
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