前回(こちら)は、11月4日に財務省の審議会へ出された「原則3割」の提言と、政府として決まっていることの範囲を整理しました。

ニュースを見て、「財務省は前にも同じことを言っていなかったか」と感じた方もいると思います。実際、高齢者の負担を上げる提案はこれまで何度も出されてきました。今回は過去の経緯と、財務省と厚生労働省の立場の違い、人口と世論の実際を見ていきます。

先に、教訓(結論)を三つ

  1. 今回が初めてではありません。 70歳以上の原則3割は、2025年秋から1年のうちに3度出ています。75歳以上の2割負担は、提案から施行まで約4年かかり、対象は所得で絞られました。
  2. 提案がそのまま制度になるわけではありません。 外来の受診ごとの定額負担は4度提案され、採用されていません。骨太の方針2026も、70歳以上を「原則3割」にするとは書きませんでした。
  3. 世論は「余裕のある高齢者の負担引き上げ」に賛成が52%で、若い世代ほど賛成が多いようです。 ただし、有権者の約3人に1人は65歳以上で、その割合はまだ上がっています。

何度も出てきた提案と、その行方

75歳以上の2割負担は、2018年に財政制度等審議会が提案しました。2020年末に政府・与党が一定以上の所得のある方に絞って決め、2022年10月に施行されています。提案から約4年です。

一方、外来1回ごとに定額を払う「受診時定額負担」は、2001年、2005年、2011年、2014年と提案されましたが、導入されていません。形を変えて、紹介状なしで大病院を受診した時の定額負担として実現した、と見ることはできます。高額療養費やOTC類似薬の見直しは、縮小や対象を絞る形で決まりました。

70歳以上の原則3割は、2025年11月の分科会、2026年6月の建議、そして今回の資料と続いています。結果は分かれており、財務省の提案は「数年後には必ず決まるもの」というより、議論の出発点に近いのではないでしょうか。

財務省と厚生労働省、二つの会議

財政制度等審議会は、財務大臣の諮問を受けて予算などを話し合う会議です。国の予算を預かる立場から、支出を抑える案を先に出す役回りと読めます。これに対して、制度の具体的な見直しは、厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会で議論されます。

厚生労働大臣は、2025年11月の会見で一律3割は「現実的ではない」とし、2026年10月の会見では、外来特例や所得の線引き、年齢の引き上げなどについて「本年末までに一定の結論」を得る考えを述べています。一律ではなく、どこを動かすかを詰める立場だと私は読んでいます。

人口と世論

65歳以上の方の人口に占める割合は2025年に過去最高となり、有権者に占める割合は、私の推計で約3人に1人です。

一方、2026年6月の日本経済新聞とテレビ東京の世論調査では、所得や資産に余裕がある高齢者の窓口負担を引き上げる案に賛成が52%で、反対を上回りました。若い世代ほど賛成が多かったとされています。健康保険組合連合会の意識調査では、70代で賛否がほぼ並んでいます。世論の後押しはある程度ありますが、年代によって受け止めは分かれているようです。

見落とされがちな点 — 3割と公費

75歳以上の医療は、公費と、現役世代の保険料からの支援金などでまかなわれています。ただ、現役並み所得で3割を負担している方の給付費には、公費が入っていません。医療保険部会では、健康保険組合連合会の委員が、この部分を年約5,800億円と示しています。

このため、今の財源の仕組みのまま3割の方を増やすと、公費が入らない部分が広がり、現役世代の支援金がかえって増える面がある、という指摘が部会で出ています。厚生労働省が窓口負担の見直しを「公費負担のあり方とあわせて」検討するとしているのは、この点があるからだと読めます。窓口の割合だけを見ていると、事業主の保険料への影響を読み違えるかもしれません。

まとめ

  • 財務省の審議会は高齢者の負担増を繰り返し提案してきたが、採用・修正・不採用と結果は分かれる
  • 財務省は予算の立場から先に案を出し、制度の中身は厚生労働省の部会で詰める
  • 世論は賛成が上回るが年代で分かれ、3割の拡大は公費の組み立てとあわせて議論される

次回(第3回)は、日程の見通しと、負担が上がった時の受診行動の実績から、開業医への影響を考えます(こちら)。

出典

  • 厚生労働省 資料(75歳以上の窓口負担2割の対象): https://www.mhlw.go.jp/content/000720039.pdf
  • 内閣府「高齢社会白書」(2025年版)高齢化の状況: https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2025/html/zenbun/s1_1_1.html
  • 日本経済新聞・テレビ東京 世論調査(2026年6月): https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA242N90U6A620C2000000/

※本コラムは公表資料をもとにした一般的な情報提供であり、個別の経営判断・法的助言ではありません。制度の内容は今後の決定で変わります。