厚生労働省が8月31日に公表した「令和7年外国人雇用実態調査」は、外国人を雇う事業所にとって見過ごせない数字が並びました。この記事から数回に分けて、「外国人人材×AI」をテーマにお話しします。第1回は、労務手続きの中で一番手間がかかる「言葉の壁」を、AIでどこまで楽にできるかです。

調査の要点: 204万人、課題の1位は「言葉」

調査(対象=雇用保険被保険者5人以上で外国人を1人以上雇用する事業所、有効回答3,919事業所・14,248人)の主な結果です。

項目 数字
外国人労働者数 約204万人(前年約182万人)
在留資格の内訳 専門的・技術的分野42.1% / 身分に基づくもの24.0% / 技能実習21.7%
国籍(最多) ベトナム26.5%
月間きまって支給する現金給与額 292.4千円(前年比+6.4%)
雇用する理由(最多) 労働力不足の解消・緩和のため 68.2%
雇用上の課題(最多) 日本語能力等のためにコミュニケーションが取りにくい 46.2%
就労上のトラブル なし88.5% / あり10.0%

雇う理由の1位が「人手不足」、困りごとの1位が「言葉」。つまり、外国人雇用はもはや「特別な取り組み」ではなく人手不足対策の主流であり、その最大の障害は制度でも文化でもなく日本語のコミュニケーションだ、というのが統計の示す姿です。

徳島も例外ではありません。県内の労働人口は今後急速に減ることが見込まれ、外国人スタッフのいる職場は今後さらに増えます(この将来推計は次回以降に扱います)。

労務手続きは「日本語の書面」が前提のまま

課題の1位が言葉なのに、労務の手続きは日本語の書面を前提に組まれています。主なものを挙げます。

  1. 労働条件の明示(労働条件通知書): 雇入れ時に労働条件を書面等で明示する義務は、日本人と同じです。厚生労働省は外国人労働者向けのモデル労働条件通知書を英語・中国語・ベトナム語・タガログ語など複数言語で公開しており、本人が理解できる言語で交付することが求められます。法律上の明示義務(労働基準法15条)は日本語版でも果たせますが、外国人雇用管理指針(厚生労働省告示)は本人が理解できる言語・方法での明示と説明を求めています。指針は罰則付きの義務ではなく「望ましい取扱い」ですが、トラブル防止の観点から実務では外せません。
  2. 外国人雇用状況の届出(労働施策総合推進法28条): 外国人を雇い入れたとき・離職したときは、氏名・在留資格・在留期間等をハローワークに届け出る義務があります(特別永住者と在留資格「外交」「公用」の方は対象外)。雇用保険の被保険者なら資格取得届・喪失届が届出を兼ね(雇入れは翌月10日まで)、被保険者でない場合は様式第3号を雇入れ・離職日の属する月の翌月末日までに提出。届出事項は在留カード等の提示を受けて事業主が確認しますが、在留カードの写しをハローワークに出す必要はありません。届出を怠る・虚偽の届出をすると30万円以下の罰金の対象です。
  3. 在留期限の管理: 在留期間の更新を忘れて不法就労の状態になれば、事業主も不法就労助長罪(入管法73条の2)で処罰の対象になり得ます。期限の把握と更新時期の声かけは、事業主側の実務です(更新申請中は一定期間在留が認められる「特例期間」があるため、在留カードの期限が過ぎた瞬間に直ちに不法就労になるわけではありませんが、申請状況の確認は必要です)。
  4. 就業規則・安全衛生教育・給与明細: 就業規則の周知義務(労働基準法106条)は日本語のみでも掲示・備付け等の要件を満たせば形式的には果たせますが、内容が理解できない言語のままでは実質的な周知として十分とはいえず、指針も理解できる方法での説明を求めています。とくに安全衛生に関わる指示は、伝わっていないと労災につながります。

AIで変わるところ: 「翻訳」より「管理」

ここからが本題です。当事務所がAIエージェントで実際に労務を回している経験から、外国人雇用の実務でAIが効く順番を整理します。

1. 契約書・通知書・規程の多言語化 — 下訳は実務水準に達した

雇用契約書や労働条件通知書、就業規則の要約を英語・ベトナム語・中国語などに訳す作業は、生成AIで下訳まで数分です。数年前の機械翻訳と違い、労務用語の文脈もかなり正確に扱えます。

ただし運用ルールを2つ決めてください。1つは、正本は日本語、訳文は参考(理解を助けるためのもの)と契約書に明記すること。翻訳の食い違いで争いになったときに、どちらが優先するかを曖昧にしないためです。この取扱い自体を禁じる法令はありませんが、本人が日本語を十分に理解できないのに「日本語版で合意した」とだけ主張するのは、対等な合意を求める労働契約法3条や指針の趣旨に照らして紛争時に不利に働き得ます。だからもう1つ、賃金・労働時間・契約更新・解雇といった重要条項は、訳文を人の目で確認すること。厚労省のモデル通知書を土台にすれば、この品質チェックも楽になります。

2. 在留期限・届出期限の管理 — AIエージェントの得意分野

「誰の在留期限がいつ来るか」「先月雇い入れた人の届出は済んだか」を人が台帳で追うのは、抜けやすい仕事です。当事務所では毎晩AIが勤怠データを9つの観点で機械チェックする仕組みを動かしていますが(事例記事)、これと同じ発想で、在留期限の90日前・60日前・30日前に自動で知らせる、雇入れ月の翌月10日と翌月末日を届出期限として自動で監視する、といった仕組みは技術的に難しくありません。人は「更新の声かけ」と「届出の実施」だけをすればよくなります。

3. 日常のコミュニケーション — 翻訳AIは「補助輪」

スマートフォンの翻訳アプリや音声通訳は、現場の指示や相談の場面で確実に役に立ちます。ただ、雇用上のトラブルの多くは「言ったつもり・聞いたつもり」から起きます。重要な通知(懲戒・契約更新や雇止め・解雇・退職手続きなど)は、翻訳AIで訳した文書を本人が理解できる言語で書面にし、受領の記録を残すところまでやってください。法律が外国語の書面を義務づけているわけではありませんが、これらは後で有効性や手続きの適正さが厳しく問われる場面です。口頭の翻訳だけで済ませないのがコツです。

やってはいけない線

AI活用で気をつけるべき点を3つに絞ります。

  • 翻訳の精度を確認せずに署名させない: AI翻訳は上手になりましたが、「有給休暇の繰越」「みなし残業」のような日本独特の概念は誤訳が起きやすい部分です。少なくとも数字と期日と金額の箇所は、日本語原文と突き合わせてください。
  • 在留カードやパスポートの画像を無防備に外部AIに渡さない: 在留カード番号・国籍・生年月日は個人情報です。外部の生成AIに入力するなら、利用目的を明確にしたうえで、入力データが学習に使われないか・保存されないかを確認し、安全管理措置を講じる必要があります(個人情報保護法17条・20条・27条)。マイナンバーは番号法でさらに厳格な扱いが求められるので、原則入力しない運用にしてください。
  • 「AIが訳したから伝わったはず」で終わらせない: 周知したことの立証責任は事業主側にあります。訳文を渡した記録(日付・本人の受領サイン)を残しましょう。

まとめ

  • 外国人労働者は約204万人。雇う理由の1位は人手不足、困りごとの1位は日本語のコミュニケーション
  • 労務手続き(労働条件通知・雇用状況届出・在留期限管理)は日本語書面が前提。ここがAIで一番楽になる領域
  • 多言語化はAIで下訳→人が数字と期日を確認→正本は日本語と明記
  • 期限管理はAIエージェントに任せ、人は声かけと届出の実行に集中
  • 個人情報の扱いと「伝わった記録」だけは、AI時代でも人の仕事

次回は、徳島の労働人口が今後どう減るのかを統計で確かめ、「外国人雇用が当たり前になる」時期を考えます。

「外国人スタッフの契約書を多言語にしたい」「届出や在留期限の管理を仕組み化したい」というご相談は、当事務所の無料相談をご利用ください。

参考(一次情報)

  • 厚生労働省「令和7年外国人雇用実態調査の結果」(2026年8月31日公表): https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75722.html
  • 厚生労働省「外国人雇用状況の届出について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/todokede/index.html
  • 厚生労働省「外国人労働者向けモデル労働条件通知書(英語)」ほか各言語版: https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/040325-4.html
  • 厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(外国人雇用管理指針)

※本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。法令・指針の記述は2026年9月時点のものです。