前回は、10月1日から始まるカスタマーハラスメント対策の義務について、方針・相談窓口・対応手順の三つをそろえましょうと書きました。今回はその三つ目、実際に起きた日の初動です。
先に、教訓を三つ
- 順番は「安全確保 → 記録 → 上司へ報告 → 組織で判断」です。 目の前の担当者一人に、どこまで応じるかを決めさせてはいけません。決めるのは組織だ、と先に決めておきます。
- 記録は、事実だけを淡々と。 日時、相手の言動、要求の中身。この三点が押さえてあれば足ります。通話の文字起こしや対応記録の要約はAIが得意で、感情を混ぜずに残してくれます。
- お断りを伝える文書は、丁寧に、短く。 長く書くほど反論の足がかりが増えます。なお取引先の担当者からの行為も対象ですので、企業間の取引が中心の会社も無関係ではありません。
その場で決めることは、三つだけ
現場が混乱するのは、やることが多すぎるからです。
一つ目は、一人にしないこと。 可能な限り一人で対応させない、必要に応じて上司が代わる。指針が挙げる対処の例です。近くの誰かを呼ぶ。それだけで相手の態度が変わることも少なくありません。
二つ目は、区切ること。 十分に説明してもなお同じ要求が繰り返される場合には、一定の時間で退出をお願いする、電話を切る。これも指針が示す対処の例です。「切ってよい」と会社が先に言わないと、現場は切れません。
三つ目は、線を越えたら通報すること。 暴力や脅しなど犯罪に当たり得る言動は、警察への通報が対処の例に挙がっています。現場が迷う場面ではなく、会社が先に決めておく場面です。
やり取りの録音・録画も対処の例ですが、録ったものは個人情報です。保管の場所と期間、誰が見られるかまで決めてから始めてください。
記録は、その日のうちに
事後の対応では、事実関係を迅速かつ正確に確認することが求められます。ここで効くのが、その日のうちに残した記録です。
当事務所でお勧めしているのは、日時と場所、相手、言われたこと、要求されたこと、こちらの対応、同席者、の六項目だけを埋める様式です。A4一枚に収まります。
大事なのは、評価を書かないことです。「理不尽だった」ではなく「約四十分にわたり同じ質問が繰り返された」と書く。なお、事実が確認できた場合も、できなかった場合も、再発防止の措置は講じることとされています。記録は処分のためではなく、次を防ぐために残すものです。
AIに任せた部分、任せなかった部分
当事務所では、この流れのうち「文字起こし → 要約 → 記録様式への転記」をAIにやらせる実験をしています。想定の音声を使い、六項目に整理させました。
分かったのは、AIは事実の抽出が速く、感情語を入れないという点です。人が書くと「しつこく」「怒鳴られ」といった言葉が入りますが、AIは「同じ質問が繰り返された」と書きます。後で読み返すとき、こちらのほうが使えます。
任せなかったのは二つ、カスハラに当たるかどうかの判断と、誰にどこまで共有するかの判断です。前者はAIの答えが説得力のある言い回しで返るぶん、かえって危ういと感じました。後者は相談者のプライバシーに関わり、人が決めるべき領域です。
お断りの文書は、AIの下書きが有効でした。丁寧な日本語で短く書くのはAIが得意です。ただし出てきた文章はたいてい長すぎるので、私は半分に削って使っています。
なお指針は、業法でサービスの提供が義務づけられている場合などへの留意も求めています。医療や福祉などがそうで、「お断りする」という選択肢の置き方そのものが変わります。自社の業界での考え方を確かめてから、手順に落としてください。
初動の型は、紙一枚で足ります。順番を決め、記録の様式を決め、断る文書の雛形を持っておく。それだけで、その日、現場は迷いません。
次回は外国人雇用のシリーズに戻り、翻訳AIに任せてよい場面と任せてはいけない場面を書きます。対応手順の整備は、当事務所の無料相談でもご一緒できます。
参考(一次情報)
- 厚生労働省「顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」: https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。内容は2026年9月時点の公表資料によります。録音や記録の取扱いは個人情報保護のルールに従ってください。
