「クレームとカスハラの線引きが分かりません」。この夏、そうしたご質問が続けて届きました。2026年10月1日から、顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)への対応が、事業主の措置義務になります。昨年6月に公布された法改正を受け、今年2月には講ずべき措置を定めた指針が告示され、4月にはその解釈を示すQ&Aも公表されました。制度の輪郭は、すでに出そろっています。

先に、教訓を三つ

  1. 従業員を一人でも雇っていれば対象です。 10月1日から、会社としての方針を示すこと、相談窓口を決めること、起きたときの対応手順を決めておくこと。この三つを備える必要があります。規模を理由に先送りできる話ではありません。
  2. 「お客様は神様」の看板を降ろす一文から始めます。 方針は長文でなくて構いません。従業員に周知し、就業規則に数行を足せば、形はひとまず整います。
  3. 線引きは、要求の中身と伝え方の両面で見ます。 正当な申入れはカスハラではありません。一方で、言い方や引き止め方が度を超えれば、要求そのものに理由があっても該当し得ます。迷う場面は、国が公表しているQ&Aに型があります。

最低限そろえる三つ

対象は「事業主」で、業種や規模による線引きはありません。守る相手にはパートや派遣の方も含まれます。「顧客等」も店頭のお客様だけでなく、取引先の担当者、施設を利用する方とそのご家族、近隣にお住まいの方まで広く挙げられています。小売や飲食だけの話ではありません。

一つ目は、方針を決めて示すこと。 「著しい迷惑行為には毅然と対応し、従業員を守る」という趣旨を、経営者の言葉で一枚にまとめます。従業員への周知が義務で、お客様側に掲示することも被害の防止に効果的だとされています。

二つ目は、相談窓口を決めること。 専用の部署は要りません。誰に言えばよいのかを決めて全員に伝える。それだけでも要件を満たします。すでに他のハラスメントの窓口があるなら、一体で運用して構わないとされています。

三つ目は、起きたときの手順を決めておくこと。 一人で抱えさせない、その場で上司に報告する、必要なら記録を残す。この骨格を先に決めておくだけで、現場の判断はずいぶん楽になります。

あわせて、相談したことを理由に不利益な扱いをしない旨を就業規則に書き足しておくと、周知と記録が一度に片づきます。

どこからがカスハラか

指針は、許容される範囲を超えた言動を「要求の内容」と「手段や態様」の二面から説明します。片方だけが度を超えていても該当し得る、という書き方が大事です。

手段や態様の例には、暴力や脅し、人格を否定する言葉、土下座の強要のほか、同じ質問を執拗に繰り返す、長時間の居座りや電話で担当者を拘束する、といった行為が挙がっています。SNS上のものも含まれ、強い苦痛を与える言動なら一度きりでも該当し得ます。

一方、苦情がすべてカスハラになるわけではありません。許容される範囲のものは正当な申入れですし、障害のある方が配慮を求めること自体も当たりません。指針は、こちらの説明不足や対応のまずさが引き金になっている場合にも触れています。私も肝に銘じたいところです。

方針文の下書きは、AIが数分で

当事務所では、これらの文書の下書きをAIに作らせる実験をしました。業種と従業員数、想定される場面を三行ほど伝えると、お客様向けの掲示文、従業員向けの方針文、就業規則に足す条文案、相談記録の様式が数分で並びます。

正直に申し上げると、そのまま使える水準ではありません。窓口を誰にするかも自社の事情も、AIは知らないからです。ただ、白紙から書くのとたたき台を直すのとでは時間がまったく違いました。半日は見ていた作業が、一時間ほどで形になりました。人がやるべきは、固有名詞と現場の実情を入れ、最後に声に出して読み直すことです。

完璧な体制を一度でつくろうとせず、三つを簡潔に形にしてください。文書をそろえること自体は思っているより軽い作業で、時間がかかるのはむしろ、「断ってよい」と現場に伝わるまでのほうです。

次回は、実際にカスハラが起きた日の初動を取り上げます。方針文や就業規則の追記でお迷いのときは、当事務所の無料相談をご利用ください。

参考(一次情報)

  • 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
  • 厚生労働省「顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」: https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf

※本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。内容は2026年9月時点の公表資料によります。