前回の外国人雇用の記事では、契約書や通知書の多言語化をAIでどこまで楽にできるかを書きました。今回はその続きで、翻訳AIに任せてよさそうな場面と、任せずにおきたい場面の線引きを考えます。
先に、要点を三つ
- 日常の指示や書面の下訳は、翻訳AIで実務に使える水準に届いたと考えられます。 まずAIに下訳を出させ、人が整える流れが現実的ではないでしょうか。
- 重要な通知は、訳文を書面で渡し、受け取ったことを記録に残します。 契約の更新や終了、懲戒、退職といった場面は、口頭の翻訳で終わらせない運用が考えられます。
- 一番効きそうなのは、翻訳の精度より「原文をやさしい日本語に書き直す」ことです。 元の文が短く平易なら、どの言語への翻訳も安定します。そして書き直しこそ、AIの得意分野です。
数字で見る「言葉の壁」
厚生労働省の令和7年外国人雇用実態調査では、外国人を雇う事業所が挙げた課題の1位が「日本語能力等のためにコミュニケーションが取りにくい」で46.2%でした。前年の43.9%から増えています。外国人労働者が約204万人に増える中で、言葉の問題はむしろ目立ってきているように見えます。
徳島では、徳島労働局のまとめ(令和7年10月末時点)で、県内の外国人労働者7,324人のうちベトナムが31.1%、インドネシアが16.1%、中国が13.9%と続きます。上位三か国だけで三つの言語です。掲示や手順書をすべての母語に訳して維持し続けるのは、中小の事業所には荷が重いのではないでしょうか。
任せてよさそうな場面、任せずにおきたい場面
翻訳AIに任せてよさそうなのは、日々の業務指示、社内の連絡、手順書やお知らせの下訳です。翻訳アプリや音声通訳は、その日の段取りを伝える程度なら十分に役に立つと考えられます。誤りがあっても、その場で聞き返して直せるからです。
任せずにおきたいのは、後から「聞いていない」となると取り返しがつきにくい場面です。契約の更新や終了、懲戒、退職、賃金や労働時間の変更などがこれに当たります。こうした通知は、翻訳AIで訳文を作るところまでは使いつつ、本人が理解できる言語の書面にして渡し、受け取った日付と署名を残す、という運用が考えられます。数字・期日・金額の箇所は、日本語の原文と人が突き合わせておきたいところです。
もう一つ、AIに委ねない方がよいと考えられるのが「伝わったかどうかの判断」です。訳文がきれいに出てきても、本人が理解したかは別の話です。職場なら、本人に要点を自分の言葉で言い直してもらう、といったやり方が現実的ではないでしょうか。
一番効くのは、原文を直すこと
翻訳AIの精度を比べるより、原文を先に直した方が結果が良くなるのではないか、と私は考えています。長い一文、二重否定、遠回しな敬語、専門用語。これらは日本人にも読みにくく、翻訳AIにも意味が取りづらい要素です。
出入国在留管理庁と文化庁の「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」は、書き換えを三つのステップで整理しています。まず情報を整理して日本人にわかりやすい文章にする。次に、簡単な言葉を使う、受身形や使役表現をできる限り使わない、三つ以上のことは箇条書きにする、といった工夫で外国人にもわかりやすい文章にする。最後に、わかりやすさを確認する。
この一つ目と二つ目は、生成AIがかなり得意な作業です。「この文書を、やさしい日本語のガイドラインに沿って書き直してください」と頼めば、下書きは数分で出てくるでしょう。人はそれを読んで、意味が変わっていないかを見る。やさしい日本語の原文は、どの言語にも翻訳しやすく、日本人の新入社員にも読みやすい文になります。翻訳AIの一番の使いどころは翻訳そのものより、その手前にあるのかもしれません。
まとめ
- 日常の指示や下訳は翻訳AIに任せ、その場で聞き返して直す
- 重要な通知は、訳文を書面で渡し、受領を記録に残す
- 原文をやさしい日本語に書き直す。そこがAIの得意分野で、翻訳の質も上がる
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参考(一次情報)
- 厚生労働省「令和7年外国人雇用実態調査の結果」(2026年8月31日公表): https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75722.html
- 出入国在留管理庁・文化庁「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」: https://www.moj.go.jp/isa/support/portal/plainjapanese_guideline.html
- 徳島労働局「外国人雇用状況の届出状況(令和7年10月末時点)」: https://jsite.mhlw.go.jp/tokushima-roudoukyoku/newpage_02052.html
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。統計・資料の記述は2026年9月時点の公表資料によります。
