前回は、法改正は先に効き、解釈の明確化は過去にも及び得る、という仕組みを書きました。今回は、実際にあった例を三つ並べます。いずれも特定の会社を責める話ではなく、仕組みの例として読んでいただければと思います。

先に、要点を三つ

  1. 肩書や名目より、実態で判断されます。 「管理職」「割増金」「賞与」と名前を付けても、中身が違えば別のものとして扱われます。
  2. 判決や解釈の通達は、過去にも及びます。 当時は通っていた扱いでも、時効の範囲で過去の分まで精算が求められ得ます。
  3. 適用日つきの見直しは、先に効きます。 同じ「明確化」でも、適用日があれば過去はそのまま。どちらの型かを見分けることが大切だと考えられます。

例1 名ばかり管理職(2008年の通達)

店長を「管理監督者」として扱い、残業代を払わない。管理監督者は労働時間の規制の対象外とされているため、就業規則と肩書の上では整っている扱いでした。

店長の扱いが裁判で争われたことが大きく報じられたあと、厚生労働省は2008年9月9日、最近の裁判例も参考にしたとして、チェーン店の店長などについて管理監督者に当たるかを判断する要素を整理した通達を出しました。採用や解雇に実質的に関わらない、勤務割を決める権限がない、遅刻・早退で減給される、といった事情は、管理監督者であることを否定する要素になると示しています。

この通達は新しいルールではなく、昭和22年以来の判断基準を具体的にしたものです。該当すれば、過去の残業代が時効の範囲で請求の対象になり得ます。当時は「店長だから」で通っていたものが、さかのぼって精算される型です。

例2 歩合給から残業代を差し引く仕組み(2020年の最高裁判決)

タクシー乗務員の歩合給を計算するとき、売上に応じた額から、残業手当などに相当する額を差し引く。この仕組みでは、売上が同じなら残業をしてもしなくても総額はほぼ同じになります。

この賃金規則をめぐっては、裁判所の判断が分かれました。一審と控訴審は無効と判断し、2017年の最高裁判決は「当然に無効とはいえない」として審理をやり直させ、やり直しの控訴審は会社側の主張を認めました。それが2020年3月30日の最高裁判決で、名目のみを割増金に置き換えたものであり、法律の定める割増賃金を支払ったとはいえない、とされました。

裁判所の中でも判断が分かれていたもの、つまり、まさにグレーだったものが、最終的に否定され、過去の未払い分の精算に進んだ例です。

例3 賞与の扱い(2018年の通知)

社会保険では、年3回以下の賞与は「賞与」として、年4回以上なら毎月の「報酬」として保険料を計算します。支給の名目や回数の数え方しだいで保険料の計算が変わり得るため、ここにもグレーがありました。

厚生労働省は2018年7月、名称にかかわらず性質の異なるものは性質ごとに判別する、といった点を「明確化及び徹底を図るため」に通知しました。ただしこの通知には翌年1月4日から適用すると書かれていました。同じ明確化でも、先に向かって効く型です。

三つを並べると

名ばかり管理職と歩合給の例は、過去に及びました。賞与の例は、適用日が置かれ、先に効きました。分かれ目は、示されたのが「もともとの法律の意味」か「これからの取扱い」か、という点にあると考えられます。そして、どちらの型になるかは、使っている側からは選べません。

まとめ

  • 肩書や名目ではなく、実態で判断される
  • 判決や解釈の通達は、時効の範囲で過去にも及び得る
  • 適用日つきの見直しは先に効く。どちらになるかは使う側からは選べない

次回(最終回)は、グレーに近寄らないための見分け方を書きます。自社の賃金や手当の決め方に気になる点がある方は、当事務所の無料相談をご利用ください。

参考(一次情報)

  • 厚生労働省 基発第0909001号「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」(平成20年9月9日): https://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/09/dl/h0909-2a.pdf
  • 最高裁判所第一小法廷 令和2年3月30日判決(平成30年(受)第908号 賃金請求事件): https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-89433.pdf
  • 厚生労働省「健康保険法及び厚生年金保険法における賞与に係る報酬の取扱いについて」の一部改正(平成30年7月30日 保保発0730第1号・年管管発0730第1号、平成31年1月4日適用): https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2018/20181023.files/01.pdf
  • 関係条文: 労働基準法第37条・第41条第2号

※本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。内容は2026年10月4日時点の公表資料によります。